倉俣史朗 1990年 撮影：小川隆之 ©Kuramata Design Office

 
戦後日本を代表するデザイナーのひとり、倉俣史朗（くらまた しろう）氏。椅子や照明機器といったプロダクト、インテリアデザインの領域で斬新な活動を展開し、透明感や浮遊感を湛えた作品で世界的に評価されました。
 
活動を始めた1960〜80年代にかけて、倉俣史朗氏は静岡の商業施設に数多く携わりました。その中で、当社タカラ堂の店舗も倉俣氏に手掛けてもらいました！

外観：ウインドー・厚10mmガラス/棚・厚5mm 硬質ガラス 2ヵ所止め

 
現在はなくなってしまいましたが、七間町にあった店舗はクラマタ・デザイン事務所による設計でした。以下に倉俣史朗氏のコメントを記載しておきます。
 
「この店舗のなかで　やってみたいと思ったことは　最少限のエレメントと最少限のシステムによる不変的なものをつくることだった。とはいっても　店舗に永久性や不変性をのぞむ のは　しょせんムりなことであり　したがって　ここでいう〔不変〕も　形としては一定期間に限られた　いずれは消える運命のものだろうし　その中から　また新しいものが生れれば　それはそれでいいと思う。
〔不変的〕なものといっても　形としてのモニュメントを考える気はさらさらない。
ある一時期　きわめて多元的な要素を空間に求めたことがあったが　それにひきつづく今の不変的なものをつくりたいという欲求は　すくなくとも僕自身にとっては　以前の反動ではなく　むしろ　同一線上での移動と　展開だとして　つぎのもののとき　かならずフィールドバックして物を考えたい結果だといえば　弁解になるだろうか。だから　多元的なあるいは可変的な要素を否定する意味はまったくない。

店内奥より入口方向をみる：天井・アイボリーホワイト カラー仕上げ/床・Pタイル 黒/壁・半つやラッカー吹き付け 黒

 
ここで　ひとつの要素としてガラスを使ったのはガラスの“シッポをふって”ついてこないというつれない魅力もさることながら　マテリアルとしてのガラスと対象商品としての宝石が　それぞれもっている抒情と非情の両面を融合させたかったからでもある。しかし残念なことにショーケースがガラスに比して重くなりすぎてしまった。
店が単に計算に合った売上げだけを目的にするのなら　それはそれなりにむずかしいことではないが　ただそれだけのものだとしたら　店なんてものはハカナイものだと思う。
物を商う場には当然　単なる売上げ高のみにとどまらない商いとしての主張　創造としての主張がなければ　いけないのではないかと思う。

Jewelry Shop Takarado in Shichikencho Shizuoka･City designed by Kuramata Design Office fixtured by Kobayashi Co.Ltd

 
たとえば　私見ながら例をひくと　新宿・Ｉデパート新館は商品も豊富であり　店員もよく　スペースもゆったりしているが　どうもそこから明確な主張とか個性をうかがうのが困難である。同じようなことが　デザインする行為そのものにもいえるのではないだろうか。
一般にカタチをつくることだけがデザインだととられがちだけれども　そして確かに結果としてあらわれた具体的なもの　目にみえるものがデザインであるのはたしかなのだが　しかし　それだけではないはずだ。
結果として　具体的なカタチは過程にある抽象的な主張とか考え方をふくむ表現なのだと思う。〔倉俣史朗〕

商店建築 第十四巻 第三号 特集Ⅰ 服飾時計貴金属店より
昭和四十四年三月一日発行

2024年11月26日(火)の静岡新聞に、倉俣史朗氏がタカラ堂の店舗デザインを手がけたとの記事を掲載いただきました。残念ながら今店舗はありませんが、同じく倉俣氏がデザインしたランプなどは一部残っています。
 
現在、12月15日(日)まで静岡市美術館にて小企画展「Shizubi Research+ 倉俣史朗と静岡」が開催中です。
 
また、今は1988年に倉俣史朗氏が手がけたバー「COMBLÉ（コンブレ）」が営業を再開し注目を集めています。倉俣史朗デザインの空間が体感できる、数少ない現存する店舗です。ぜひ気になる方は足を運んでみてください！
 
［コンブレ CoMbLé］
〒420-0031
静岡県静岡市葵区呉服町2-7-2 静専ビル2F
054-653-2200
19：00～25：00（24：00LO）
日・祝・第二月曜日休業